
Vol.062 与える仕事
2020年07月14日更新
米国のトップスクールの一つ、ペンシルバニア大学ウォートン校にて、史上最年少で終身教授となったアダム・グラントという方がいます。
数年前、この方が書かれた『GIVE&TAKE -与える人こそ成功する時代- (三笠書房)』という本が話題となりました。
世界レベルの組織心理学の研究者が執筆しただけあり、論理の科学的根拠がきちんと示されているのが、本書の特徴です。
筆者は、人間を以下3つのタイプに分け、それぞれの生き方の是非を様々な研究結果を紹介しながら論じています。
ギバー ・・・ 人に惜しみなく与える人
テイカー ・・・ 真っ先に自分の利益を優先させる人
マッチャー ・・・ 損得のバランスを考える人
サブタイトルにもある通り、「ギバー(与える人)が成功する」というのが筆者の主張です。
しかし、お話はそう単純でもありません。
本の中では、下記のような点にも触れられており、どれも興味深い論考です。
・ギバーが人生で最も成功するが、人生で最も失敗する人たちもまたギバーである
・何が与えることを素晴らしいものにし、また何が危険なものにするのか
・成功するギバーは「〇〇」ではなく、「〇〇」を持っている
・今日のような社会において「テイカー」が脱落し、「ギバー」が成功する理由
・研究が示唆する「テイカーを見分ける方法」
ここですべてを紹介させていただくことはできないので、ご興味を持たれた方は本を読んでいただくとして(グラント教授のTEDスピーチもあります)、プラスジムと特に関係の深い箇所についてここでは書かせていただきます。
まず、一点目。
プラスジムでは「ギバー」という言葉は使いませんが、長く働いている講師に関しては、全員に「ギバー」の傾向が見られます。
塾の明確な方針として、「ギバー」中心の組織にしたいと考えてきたからです。
なぜか?その理由をグラント教授の言葉を借りて説明するとこうなります。
ギバーも、テイカーも、マッチャーも成功することは可能だし、現に成功してもいる。しかしギバーが成功するときには、ギバー特有の現象が起こるのだーその成功がまわりの人びとに波及していくのである
テイカーが勝つ場合には、たいていほかの誰かが負ける。調査によれば、成功したテイカーは妬まれやすく、何とかしてその鼻をへし折ってやろうと周囲から思われるという。(中略)
ギバーは成功から価値を得るだけでなく、価値も生み出す。それがテイカーやマッチャーと違っているのだ。
『GIVE&TAKE』P36より引用
「ギバー」を中心とした組織を作れば、全体として生み出す価値を最大化することができ、(与えられる側の存在である)生徒はもちろんのこと、「与える側=ギバー」である本人も仕事から多くの価値を得られるようになるからです。
「全体を幸せにして、そのことによって自分も幸せになる」
こう考えられる文化を大切にしてきています。
そして、二点目。
グラント教授はこう述べています。結論から紹介させていただきます。
1980年代、心理学者のベンジャミン・ブルームは、世界一流の音楽家、科学者、アスリートを対象に画期的な調査を行った。(中略)著名なピアニストの初期の音楽経験について探り出していったところ、驚いたことに、生まれながらに才能に恵まれていたわけではなかったことがわかった。(中略)ブルームの調査によれば、才能のある音楽家やアスリートはみな最初、ギバーの教師から学んでいた。
『GIVE&TAKE』P174より引用
その理由をこう説明します。
超一流のピアニストは、ギバーである教師によって音楽への関心に火がついたのである。教師はレッスンが楽しくなるような方法をあれこれ工夫し、これがきっかけとなって猛練習をするようになり、専門的技術が身についていったのだ。「可能性を切り拓き、さまざまな音楽活動に関わることが、正しいとか間違っているとか、いいとか悪いといったことよりも優先されるのだ。」
『GIVE&TAKE』P175より引用
「与える」ことを大切に考え、行動できる教師が生徒のやる気に火をつけることができるのです。
わかりやすく簡潔に説明できたり、気の利いた例示を行えることは素晴らしいことですが、それだけでは生徒の心に火をつけることはできません。
塾長ブログVol.054 生徒の心に火をつける
生徒の心に火をつけるためには、何よりも「粘り強さ」が必要であり、その「粘り強さ」の背景にはギバー特有の思考パターンが関係してきます。
それに関しては、冒頭の紹介文で監訳を担当された一橋大学の楠木教授がわかりやすくまとめてくれています。
「速効性」や「確実性」を求めている人は、ギバーにはなれない。「与える人が成功する」というロジックは、現象として起きるまでに非常に時間がかかる。(中略)要するに、時間的に鷹揚な人でないとギバーにはなれない。
『GIVE&TAKE』P7より引用
生徒の可能性を最後の最後まで信じ、「与える」ことを継続できる教師だけが、生徒の心に火をつけることができるのです。