Vol.157 緊張と弛緩
2020年06月09日更新
今日は感動的な授業を生み出す秘訣をお伝えします。
そのコツは、「緊張」と「弛緩」の使い分けにあります。
人がどんなときに良い気分になるかというと、悪い状態から良い状態に変化するときです。
この瞬間、脳内では大量のドーパミンが分泌されています。
しかし、これは一時的な現象です。
例えば、第一志望の学校に合格したとしても、合格を知った瞬間の嬉しさをピークとして次第に気持ちは冷めていきますよね。
つまり、気分の良い状態がずっと続くということはないということ。
逆に、悪い状態がずっと続くということもありません。
人はその状態に次第に慣れていく生き物だからです。
ずっと「悪い」と感じているとすれば、時間の経過とともに状況がさらに悪化しているからでしょう。
悪い状態とほぼセットになるのが心理的な「不安」です。
その「不安」によるストレスから解放されると、人は良い気分になります。
ここにジレンマが生じます。
良い気分を味わうためには、先に「不安」のトンネルを抜ける必要があるのです。
そのため、ほとんど無意識に、人は「不安」を自ら求めます。
その「不安」による束縛から解放されることで得られる至福感を得ようとせんがために、です。
私は、こうした心の働きを「緊張(しめる)」と「弛緩(ゆるめる)」の相互作用として理解しています。
この相互作用から感動が生まれます。
例えば、映画。
一昔前、大ヒットした作品に『ショーシャンクの空に』という映画があります。
冤罪で投獄されてしまったエリート銀行員のお話です。
刑務所内で数々の理不尽な仕打ちを受けるのですが(緊張)、主人公の知恵と機転によって看守長による暴力の危機を回避できたり、より優遇された係に配置替えされたりします(弛緩)。
映画には、さらに大きな「緊張」と「弛緩」もあるのですが、ここでは触れずにおきます。
とにかく、物語が生み出す大小さまざまな「緊張」と「弛緩」の相互作用が観客にとって心地よく感じ、それが感動にまでつながっているということです。
この「緊張」と「弛緩」の相互作用によって、授業で感動を創出することができます。
さらに大きなレベルでは、受験生の年間カリキュラムに関しても「緊張」と「弛緩」のバランスを考えて、課題量を配分したりもしています。
ただし、注意しなければならないのは、塾は生徒の生活全体の一部に過ぎないという点。
生徒の「緊張」や「弛緩」を生み出す要因は様々なので、外的要因をきちんと理解しなければ「緊張」に「緊張」を重ねてしまったり、またその逆をしてしまったりします。
そのような外部要因とのバランスを考えながら、相手にとって心地よい「緊張」と「弛緩」のリズムを意図的に作りだす。
生徒の状況に対する深い理解と、職人芸のように細やかな配慮なしには成功しません。
誰にでもできるわけでもなく、教師の仕事の中でも特に難しい領域の仕事だと考えています。