Vol.158 価値のない失敗
2020年06月16日更新
「人生に失敗がないと人生を失敗する」とは、精神科医の齋藤茂太さんの言葉です。
この言葉を引用して記事を書いたこともあります。
失敗には価値があります。
人間、上手くいった経験から学ぶことも多いですが、失敗から学ぶことはさらに多いです。
しかし、とにかくたくさん失敗すれば良いかというとそういうものでもありません。
価値のある失敗もあれば、あまり価値のない失敗もあります。
失敗をどう意味付けするかは自分次第ではありますが、なるべくなら避けたい失敗もあるのです。
それは少なくとも3つあります。
避けたい失敗の一つ目は、「人生の致命傷となる失敗」です。
例えば、事業に失敗して再起不能なほどの借金を抱えてしまうことや、覚せい剤のような薬物の依存症になってしまうこと、凶悪犯罪を起こしてしまうことなどが該当します。
復活も可能ですが、相当強いメンタルが必要であり、通常はそのまま人生転落していきます。
普通の暮らしの中で気をつけたいのは交通事故と他人の誹謗中傷ですかね。物理的に他人を傷つける人はあまりいませんが、言葉の暴力で他人を傷つける人は結構います。
言葉で傷つけた相手が自殺してしまったような場合、本人はそれを一生背負って生きていかねばなりません。
このレベルの失敗に関して、親は最大限の注意を払わなければなりません。
避けたい失敗の二つ目は、「同じ原因で何度も繰り返される失敗」です。
同じ原因による失敗を何度も繰り返すことにあまり価値はありません。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)のような病気の場合は仕方がないのですが、人生で同じ失敗を何度も繰り返してしまうことは回避したいものです。同じ原因で失敗を繰り返しているということは、前の失敗と今回の失敗の間に成長がなかったということです。
同じような失敗でも違った原因によるものなのであれば、そこには学びや成長の可能性があります。例えば、「財布をなくす」という失敗に関して、「盗難」と「紛失」では原因が異なるので別々に考えましょうということです。
そのため、「計算ミス」もここには該当しません。
通常、計算ミスはすべて同じ原因によるものではなく、別々の原因で起きているからです。
「途中式で0と6を読み間違える」や「方程式の移項で-をつけ忘れる」くらいまで具体的でなければ「同じ失敗」とは言えないです。
避けたい失敗の三つ目は、「よくある失敗」です。
逆に言うと、「どうせ失敗するならめずらしい落とし穴にはまってください」ということです。
人間は99.9%他人と同じDNA配列を持っています。
そこから何が言えるかと言うと、「結局、みんな同じような失敗をする」ということです。
しかし、残念ながらこの失敗にはあまり価値がないんですね。
その失敗を人類全体という視点で捉えれば、「同じ原因で何度も繰り返される失敗」に該当し、その経験から導かれる教訓は、すでに世の中に存在しているからです。
希少価値がないものには価値があまりないというのが世の常です。
このありがちな罠から身を守ってくれるのが「勉強」です。
「勉強」はこの「よくある失敗」を回避するために行っています※。(※「研究」は違います)
成功は模倣しにくいのですが、失敗の原因は共通しており「学び」によって回避できるからです。
ちなみに受験の「不合格」はどうなのだという疑問もあろうかと思いますが、「不合格」はここには該当しません。
めずらしいことではなく、「不合格」に至る原因もありふれたものであることが大半です。
しかし、本人の人生という観点からみれば希少な経験であり、その衝撃は大きな学びとなりえます。
(ただし、落ちて平然としているようであれば「価値のない失敗」です)
失敗するということは時間を消費する、ということです。
この3つの「価値のない失敗」に関してはなるべく回避させ、子どもの人生の時間のロスを減らし、成功のための活動に集中させてあげることこそ、経験豊富な大人の役割だと考えています。