Vol.209 考え方の改革

Vol.209 考え方の改革



2021年06月15日投稿
2021年06月15日更新



人生には、現状を打破するために本人が大きく変わらなければならない場面があります。
結果的に変わらなければならないのは「行動」ですが、「行動」を生み出す主体となるのは本人の「考え方」なので、「考え方」の変化が先です。
では、その「考え方」はどのようにして変わるのか?
今回は「社会心理学の父」と呼ばれたクルト・レヴィン(1890-1947)の「解凍、変化、凍結」という理論を紹介させていただきます。経営学を学ばれている方であれば、組織変革のプロセスとして、この理論を耳にされたことがある方もいらっしゃるかもしれません。個人にも充分に適応可能な理論ですし、実際に私はこの理論を自らの指導に取り入れています。
ただし、親が子どもに行うには不向きですので、その点はご注意ください。

■ステップ1 解凍
大抵の場合、本人の中に現状をもっと良くしたいという気持ちは存在していますが、現状を変えたくないという気持ちも同時に存在しています。例えば、「成績を伸ばしたいけど、ゲームの時間を削りたくない」のように。「変わりたいのに変わらない」状態とは、このように相反する感情が本人の中で絶妙にバランスしている状態と言えます。「考え方」が固定化している状態です。
変化を起こすには、この安定状態をぐらぐら揺り動かさなければなりません。これが「解凍」です。そのためには本人の心の中に何らかの葛藤を生じさせる必要があります。その方法については、色々な可能性が考えられますが、意図的にやるのであれば、問題提起型の対話が基本です。
現在日曜劇場で放映中の『ドラゴン桜』を観ている方であれば、主人公の桜木先生が非常によく使う手法ですとお伝えするとわかりやすいかもしれません。「バカとブスこそ東大にいけ」のような過激なセリフで生徒の心に葛藤を作り出します。フィクションなので表現は誇張されていますが、やっていることはセオリー通りと言えるでしょう。
「部活動で大けがをした」のように、本人の意図しない出来事がきっかけとなって、この葛藤状態に陥ることもあります。
このようにして心の不安定状態を作り出すことが、改革のファーストステップとなります。

■ステップ2 変化
「解凍」はあくまでも、改革のきっかけに過ぎません。
心の不安定状態がどのくらいの期間続くかは状況によります。受験生であれば、常時心が揺れ動いている状態に見えることもあります。その不安定な状況に適応するために、本人は自分なりに物事を考えるようになります。自分自身のこと、周囲の世界のこと、自分の考えを言葉にすることを通じて、自らの「考え方」を再構築していきます。受験に対してどう向き合うべきか、定期試験はどの程度力を入れるべきか、努力は美しいか、友人とは仲良くすべきか、など、すべての行動の起点となるのは、本人の「考え方」です。
その際、葛藤や状況を的確な言葉で表現してくれる言語化能力の高い成長支援者が近くにいると理想的です。「目から鱗が落ちる」経験をたくさん積めると思います。
このようにして、本人の中に新しい「考え方」が形成されていきます。
これが「変化」です。

■ステップ3 凍結
せっかくの「変化」も、そのまま放っておくと元の状態に戻ってしまうことがあります。
本人が変わっても、環境がそのままだと、再びその環境に最適化されてしまうのです。留学先で英語を熱心に学んでいた人が、日本に帰国すると、英語を勉強しなくなるようなものです。その変化が本人の成長にとって望ましいものだったのであれば、その状態を固定化させる必要があります。レヴィン博士の理論では、これを「凍結」と言います。
そのためには、体験したことをきちんと振り返って言葉にまとめておくことが大切です。
これは個人的な意見ですが、考え方の「変化(≒成長)」に合わせて、自分の環境を変えることが、この「凍結」ステップを上手く乗り越えるコツかなと思います。この点に関しては、経営コンサルタントの大前研一氏の有名な言葉がありますので、最後に紹介させていただきます。

「人間が変わる方法は3つしかない。一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える。この3つの要素でしか人は変わらない。もっとも無意味なのは“決意を新たにする”ことだ。」

『時間とムダの科学(大前研一)』より抜粋   



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