Vol.216 許されない過失 -ミスの防ぎ方-
2021年08月03日更新
2021年7月30日、福岡県中間市の保育園で園児が送迎バスに置き去りにされて亡くなるというあまりにも悲しく痛ましい事件がありました。
責任者の刑事・民事責任の追及は避けられないでしょう。そうなると、状況的に「業務上過失致死罪」に問われることになるのではないかと思われます。
「過失」とは大ざっぱに言ってしまえば、ミスのことです。
ミスは中学生や高校生にとってお馴染みの言葉であり、誰にでも経験があることです。
しかし、そのミスも状況が変われば決して許されないものになり、刑法で罪人として裁かれることだってありえます。ミスを軽々しく考えている生徒には、こうした事件で新聞に出てくる「業務上過失致死(傷)罪」の話を面談でたまにしていました。
では、どうすればミスを減らせるのか。基本的には以下のやり方になります。
1. 「ミスのパターン」を知る
2. 手順を決める(見直す)
3. 手順通りに行う
(1に戻って、繰り返し)
特に初学者は1の「ミスのパターン」の知識経験の累積量が不足しています。
冒頭の事故に関しても、そうしたことが起きうるということを責任者は自覚されていたのでしょうか。必要な手順は定められており、それを守れば事故は防げたように思われますが、1が足りないと「なぜ、その手順を守らなければならないか」の腹落ちレベルが低いので、3の「手順通りに行う」がいい加減な運用になりがちです。
実は、これは中学生の指導で毎日のように目にする光景でもあります。
なぜなら、小中学生に対して勉強の手順は本人の反省から構築するのではなく、指導者が定めることが一般的だからです。プラスジムも例外ではありません。
そのため、この時期の生徒にもっともよくみられる特徴をひと言で述べると、とにかくいい加減。
「途中式を書かない」など、必要な手順を省こうとするのが典型的な症状です。
その後、適度に「痛い目」を繰り返すと腹落ちレベルが高くなり、手順を守るようになってきます。
「痛い」と思うために、ミスで何点失点したのかを、試験後の反省では必ず確認すべきです。
「手順を守る方が良い」という意識を育てていくのです。
その一方、完全にミスを防ぐというのは不可能です。
例えば、必要な手順が意識から抜け落ちてしまったら、どうしようもありません。今回の事件では「泣いている他の子の対応をしていた」と園長先生が述べられておられるようです。
日本にはおよそ20人に1人、ADHD(注意欠陥多動性障害)の問題を抱える生徒児童がいると言われており、こうした生徒には「忘れ物が多い」、「課題が間に合わない」、「うっかりミスが多い」などの症状が出ることが知られています。そうした生徒は必要な手順を定めても、その通りに物事を処理すること自体のハードルが相当に高いです。
実は、こうした子に「ミスをするな!」と声高に叫び続けるのは意味がないばかりか、本人の「自責の念」を育ててしまうことになり、かえって逆効果になります。
つまり、ミスをすることは良くないことである一方で、それを指摘しすぎるのもまた良くないのです。
どのように向き合わせるべきなのでしょうか?
ヒントになるのが、2014年都立高校入試で採点ミスが発生したことをうけて、再発防止のために招かれたANAのヒューマンエラー対策専門家の方が掲げられていた方針です。そこでは、「ヒューマンエラーをゼロにすることはできないが、エラーの影響をコントロールすることは可能」という言葉が紹介されていました。例えば、100点満点中70点の得点で合格する高校があるとして、ミスなしで70点獲れる実力のある生徒がいたとします。この生徒は最大10点分の計算ミスをする可能性があるとします。この場合、ミスなしで80点獲れるまで自分の実力を伸ばしておけば、理論上はこの生徒はこの高校に必ず合格できます。大切なことはミスをしないことではなく、ミスをしても大丈夫なように最初から手を打っておくことなのです。
つまり、ミスなく目的を達成するためには「余裕」が必要であると言えます。上記の例では、余剰点数を生み出すことで解決しましたが、試験時間残り10分までに完答できるように解くスピードを高め、二重チェック(見直し)の時間するための余剰時間を確保するという方法も考えられます。
どちらのやり方が適しているかは、試験内容と生徒の学習特性によって変わります。
冒頭の痛ましい事件の真相は私にはわかりかねますが、責任者の過失(ミス)についての意識が甘かったか、あまりにも「余裕」がない状態で保育園の運営を行っていたかのどちらかに原因があることは間違いありません。状況的にその両方ではないでしょうか。
朝早くから園長先生が一人で送迎バスを運転されていたということですから、労務的にも無理がある状態で園の運営がなされていたのではないかと推察します。
同じく大切な子どもたちを預かる場の責任者として、深く考えさせられる事件でした。
ご遺族の悲しみを想像すると、心がとても痛みます。
絶対にあってはならない過失(ミス)です。
亡くなられた園児に、心より哀悼の意を表します。