Vol.240 「東大無理」に心が折れた
2022年01月18日更新
1月16日に、「東京都立高校受験必勝説明会」を開催させていただきました。
こうした状況の中、ご参加いただいた保護者の皆さま、ありがとうございました。
オミクロン株の影響で小規模実施となりましたが、和やかな雰囲気でとても充実した時間となりました。
1月15日、大学共通テスト初日に東京大学弥生キャンパス前の歩道で大学共通テストを受験しにきた高校生2人と72歳の男性1人が、17歳の高校生に包丁で刺されるという事件がありました。
少年は「東大医学部を目指していたが、成績が上がらず自信をなくし、人を殺して自分も死のうと思った。」といった供述をしているようです。刺した相手との面識もないようですので、個人に対する怨恨による犯行ではありません。学校の面談で「東大は無理」という話になったことが直接的な引き金となったようですが、それが原因ではないでしょう。遅かれ早かれ、何らかのかたちで問題は表出していたものと思われます。
先の少年の発言を2つの要素に分解してみます。
①「東大医学部を目指していたが、成績が上がらず自信をなくし、」
②「人を殺して自分も死のうと思った。」
②のような考え方にいたってしまっていることが、そもそもの問題なのですが、このような発想になってしまう原因は「自尊心(Self-esteem)」が限りなく低下していることです。「自己肯定感」という言葉でも構わないと思います。
要は、自分で自分のことを大切に思えない状態であったわけです。自分の命すらどうでも良いと思っているのですから、見ず知らずの他人の命など知ったことではないでしょう。自分を大切に思いやれる人間だけが、本当の意味で他人に優しくなれるものだと私は思います。
思春期ですから、つらいことがあればこのような乱暴な気持ちになる日があっても不思議ではありません。しかし、思いつくことくらいはあっても犯罪を実行するまでの間に、気持ちが冷めて思いなおすのが普通でしょう。被害者にも同情しますが、加害者の少年が心の奥底で抱えていた闇の深さを思うと、やはり同じように心は痛みます。成績が不調だったのなら、成績ではないところでもっともっと本人の存在を承認するための働きかけが必要だったのだと思います。根本的なところで、本人の心の安心が欠乏しています。
一部の児童生徒にとって、受験が自らの存在意義を全否定される脅威になってしまっています。周囲の人間が「絶対に医学部に進学しなければダメだ」、「バカでも入れる高校に進学するくらいなら就職しろ」、「〇〇高校でないと許さない」のようにして、本人を追いこんだ場合は特に、です。
親がそれに似た言葉を言ってしまい、親子の信頼関係が崩壊する場面も何度か目にしてきました。
悪気があってのことではなく、子どもの将来を心配してのことなのはよくわかるのですが、それも究極的には親のエゴだと私は思っていて、要するに自分が心配事を抱えるのが嫌なのです。
ひどい場合では、自分の世間体を保つために子どもを追いこんでしまう親もいます。
こうなると、子どもの受験が自分事なので、不合格になると親の精神がやられます。
まったく健全な親子関係とは言えません。
客観的に少年の発言を聞いた方は、次のように思うのではないでしょうか。
「東大医学部を目指せるくらい成績優秀なのだから、自信を失う必要なんてまったくないし、東大が無理なら別の大学を目指せば良いだけでは?」
実際、その通りなのです。
人間は他人事だと冷静に「どうあるべきか」を言えるんですよね。
しかし、当の本人にとっては到底そのようには思えない問題だったのでしょう。
程度の問題の差こそあれ、誰でもこうした心理状態に陥ってしまう可能性はあるということです。
だからこそ、熱くなったときは冷静に。
ここまでの事件を起こすことはなくとも、親子関係の断絶くらいはよくある話です。
受験直前期の今、子どもたちは特に神経質になっていますから、いつも以上に慎重な言動を心がけるようにされてください。