Vol.280 親も勉強はすべき?

Vol.280 親も勉強はすべき?



2022年10月25日投稿
2022年10月25日更新



よく言われることの一つに、「子どもに勉強をさせたければ、親が勉強している姿を見せなさい」といったような教えがあります。
こうしたことを言われ始めるようになったのは、1990年代初頭にサルの脳内で「ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞が発見されたことがきっかけではないでしょうか。「DNAの発見に匹敵する」と言われたほど、脳科学や心理学に大きなインパクトを与えた学説です。「ミラーニューロン」をわかりやすく言えば、「物まね」神経細胞です。
ただ、この神経細胞が人間に存在するのかどうかや、あったとしてどういった働きをしているのかなどについては、2022年現在、まだまだ詳しいことは解明されていません。
「親の姿を子は真似る」ことの科学的根拠にはまったくならないレベルの話です。
私は、親が勉強したところで子どもは勉強するようにならない、と考えています。
「そういうことはない!」と断言まではできませんが、「子どもに勉強させるために親が勉強することからはじめましょう」というのは、ずいぶんと遠回りのアプローチですし、お勧めできません。
しかし、別の理由で、親もなにか勉強された方が良いのではないかと思うケースはあります。

親子関係に限らず人間関係が上手くいかないというのは、コミュニケーションの問題です。
コミュニケーションの大原則は、相手の立場に立つこと
感覚的に、あるいは論理的に、相手がおかれている状況を自分なりに想像し、この状況を相手はどう思うか、どう考えるか、ということを念頭において言葉を交わすものです。
相手の立場に立とうと思ったとき、最も有効な方法は、自分もそれを経験すること、です。
受験勉強というのは、たしかに親も経験してきたことかもしれませんが、数十年前の経験は、いま目の前にいる子どもの気持ちを想像するのにはあまり役立ちませんし、そもそも、自分の記憶というのは美化されています。親にも、がんばらなければと思いながらもがんばりきれずにテレビばかり観ていた時間や、勉強に全然集中できずにぼーっと窓の外ばかり見ていたようなこともあったはずなのですが、そういう都合の悪いことは忘れているものです。
中学受験や高校受験の場合には、もう一つ問題があって、暗に自分の大学受験生時代の勉強量と比較されている親も多いです。それが受験勉強に関する最新の記憶だからです。
当然の話、高校生と小中学生では比較にならないです。
結果的に、子どもに無理難題を要求される方が多くいます。
そうならないために、まずできることは自分も何か勉強をしてみること。
大人は仕事しているから、あるいは家事で忙しいから勉強はできない。そう思われるのかもしれませんが、ほとんどの場合、勉強のための時間がまったく取れないということはなく、1日10分や20分の勉強時間なら、確保しようと思えばできる人が大半かと思います。
少ない自由時間を楽しみ以外のことに使うことが大変なのは、大人も子どもも変わりません
要は、その気持ちを理解することが大事なのです。

自分はたくさん勉強しているが、子どもは同じようにしない。
だから、私には勉強をしない子どもの気持ちが全然わからない。
こうおっしゃられる方もいます。
そういう場合、いまの自分にとって勉強が苦痛なことではないだけかもしれません。
勉強は、やればやるほどに楽しさがわかるようになるので充分にありえることです。
ここでの目的は、「(自分も同じ経験をして)相手の立場に立つこと」ですから、ダイエットに励んでみる、読書する、副業に挑戦してみる、など、(やった方が良いと考えているにも関わらず)自分が心理的に大変だなぁと思うことに取り組んでみることをお勧めします。

そうした努力の結果として、子どもが勉強するようになるわけではありませんが、コミュニケーションが行いやすくなり、子どもとの信頼関係は築きやすくなります
子どもに勉強させることよりも、はるかに大切なことです。


この記事をシェアする