Vol.102 長所を伸ばす指導だけではダメ

Vol.102 長所を伸ばす指導だけではダメ



2019年05月07日投稿
2020年07月14日更新



20世紀最大の経営学者と言われるドラッカーに、有名な格言があります。
「強みの上に築け(Build on strength)」
キャリア戦略においては、それが最も大切なことだと私も思います。
しかし、中学生までの義務教育期間、「強み(=長所)」を伸ばすことしか頭にない教師がいたとすると、その指導方針には首をかしげざるを得ません。
そもそも、何が自分に向いているのかという「強み」の発見も「弱み」と向き合う経験から生まれます。
自分の苦手なテーマと、とことん対峙したからこそ得られる発見もあります。
他にも理由はあります。
将来、「強み」に基づいた仕事に就けても、苦手分野の仕事はどこかに残る可能性が高いです。
得意なことだけやっていればOK!という恵まれた人はまずいません。
例えば、私は人を育てるこの仕事が天職だと思っていますが、会社をきちんと運営するためには経理の仕事なども行わなければなりません。こうした細かい仕事はどちらかと言うと苦手分野ですし今は人に任せていますが、創業期は誰の力も借りることができなかったので全部一人でやっていました。もし、私にまったくこの手の学習能力がなかったとしたらと思うとぞっとします。

成果を出すことが目的である仕事とは違い、「学び」の目的は自己成長です。
自分が最大限に成長できる道を選ぶのが「学び」における正解ルートです。
得意分野で自信を育てるのも成長なら、苦手分野で自分の中に生じた劣等感と向き合う勇気を育てるのもまた成長です。
人間性という意味ではむしろ逆境の中にこそ、成長の糧があるわけですから。

Vol.061 逆境と順境

教育方針を対象の人生のステージによって分けて考えてあげることが大切です。
仕事をする上での基本動作(=「弱みの補強)を教えたりすることもありますが、社会人や大学生に対して効果的なのは「強み」を強化するための成長支援です。高校生は成熟の度合いに個人差があるので、一概に言えませんが、その生徒の「強み」はなにかということを意識しながらの指導は外せません。なぜなら、この段階でそれを意識し始めなければ大学選びで困ることになるからです。
このように高校生より上の年齢層に対しては、相手の「強み」を伸ばすということを意識して成長支援を行っています。
しかし、小中学生に対して必要なのは、「弱み」の補強を軸にした成長支援。
この段階で発見した「強み」は、ほめて生徒に自己認識させることまでが重要だと考えています。
成績の伸長に関わりが深い特性であれば、それを生かした学習方針を立てることはありますが。

「子どもは長所だけを伸ばしなさい」とか色々言われて、困ってしまう親御さんも多いと思います。
小中学生に関して言えば、そんな育て方で良いはずはないのでご安心ください。
社会生活に必要な基本動作が身についていない子どもと真剣に向き合ったことのないエセ教育者の戯言に過ぎません。
ドラッカーは「強みの上に築け」と言いました。
これは「成果」を出したいと願うすべての人にとっての基本方針です。
しかし繰り返しますが、「学び」において「成果」は目的ではなくて「成長」のための手段です。
将来、仕事で成果を出すために自らの「強み」を理解しておくことは大切ですが、「成長」ステージを目的とした人生のステージで得意なことしかしないのはあまりにもったいない。
得意も苦手も、まずは色々な経験を積ませることが大切だと考えています。


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