Vol.111 中学生にスマホはまだ早い
2020年07月14日更新
プラスジム中学部では一つの大きな方針の決定をいたしました。
2019年7月20日以降、中学生の塾内へのスマートフォンの持込を禁止させていただきます。
ご家庭との連絡にどうしても必要な場合に限り、持込許可証を発行いたしますが、あくまでも「持込許可」であって、教室内や当塾敷地内での許可のない使用は一切禁止させていただきます。
万が一、(許可のない)スマホの使用や持込があった場合は、スマホを塾でお預かりし、ご両親に取りにきていただく。それが3度続いたら強制退塾、という厳しいルールになっています。
本記事は長くなりますが、その決断にいたるに至った背景を述べたものとなります。
プラスジムに関わる生徒や保護者様にとってはもちろんですが、同じようにスマホ制限に関してお悩みを持たれている教育関係者の方々の目にも留まることを期待して書いています。
正直、この決断を下すのはかなりの勇気が入りました。
「スマホは勉強の邪魔だから」のように短絡的に考え、適当に決めたことではなく、あらゆる可能性を多面的に比較検討し、優先順位をつけ、そうすることに決めました。
スマホはこれからの時代を生きる子どもたちにとっては不可欠なものです。
そうである以上、使わせないのではなく、便利な側面に着目し、積極的に活用させることを通じて、「スマホとの付き合い方」を教えてあげることが21世紀を生きる子どもたちの成長支援者としてのあるべき姿なのではないか、そんな考え方があることも当然理解しています。
開校以来、プラスジム内で生徒のスマホ取り扱いに関する制限は比較的ゆるいものであったと思います。自習中は音楽を聴くために使用する場合に関してはOK、休憩時間は自由に使わせていました。しかし、2016年頃から自習中や授業中にスマホを触ってはいけないというルールを守れない生徒が急増してきました。
また、スマホの活用方法についても気になることが増えてきました。
教室内にいる友人と自習中にLINEで連絡を取り合ってみたり、駐輪場で仲間たちと一緒にスマホゲームをして大騒ぎをしてみたり、他の生徒や講師を本人の許可を得ることなく撮影してみたり・・(他人の写真を本人のSNSに勝手に投稿したりといったことになると大変です)。
もちろん、こうした他人への迷惑行為を発見した場合は厳しめに注意は行います。
他塾のことはわかりませんが、プラスジムは比較的規律の行き届いた塾だと思っています。
それでもこうしたことが起きていたわけです。
これらは子どもに高機能なモノを持たせることの負の側面です。
例えば、自動車は18歳にならなければ運転することはできません。
もし、普通免許取得を12歳から可能にするという法案に関して投票する権限があったとして、これに賛成する人はまずいないでしょう。交通事故を起こせば、事故によって被害に遭った人はもちろんですが、事故を起こした本人の将来も最悪なことになります。
このように高機能で便利なモノには、「取り返しのつかない失敗」というリスクがあるのです。
そうしたリスクを防ぐ適切な判断を下すためには、判断するのに「充分な量の知識」が必要です。
では、この「充分な量の知識」はいつ身につくのでしょうか?
「どこに線を引く」べきなのでしょうか?
この点に関して、明確な基準をまずは設定しました。
「義務教育を終えるまでは充分な量の知識があるとは言えない」です。
いま、どこかで線を引くならここが適切だと私は考えます。
中学生までは大人が使い方を制限する。
高校生からは本人の判断を尊重する。
今後は、そのように対応を分けることを決めています。
世の中の仕組みを、一定レベルで理解してから、自分で使い方を考えさせる。
スマホの場合は一台で色々なことができてしまうので、リスク防止の観点からも特にそれが大切なことです。
リスクの代表格が「依存症」。
依存症について詳しくは以下の厚生労働省のページに詳しいです。
厚生労働省HP:「依存症についてもっと知りたい方へ」
依存症は「コントロール障害(自分の意思でやめられない病気)」なので、依存症状態にある生徒に「やらないでおこうね」という説得はあまり意味をなしません。「依存症」には規則や約束も効果なし。病気ですからそれも仕方がないのです。何度言っても同じ過ちを繰り返し、徐々にまわりとの信頼関係が崩壊していきます。
また、「依存症は治る病気」と書いてありますが、依存症とは「それをすると喜ぶ回路が脳内にできあがってしまう病気」ですから、実際のところ、なってしまってから治すのは相当大変です。
対策ができるのは、「そうなってしまう前」しかありません。
教育機関へスマホを持ち込むことの是非に関してはどうなのでしょうか。
ここで、社会的な背景を簡単に振り返ります。
総務省にスマホの所持率に関してのデータがあります。
総務省HP:「数字で見たスマホの爆発的普及」
2010年、スマホを持っている人は全体人口のわずか9.7%。
それがいまや71.8%、持っていることが当たり前の世の中に変わりました。
上記とはまた別の資料で(少し古いですが)総務省は中学生高校生のスマホ利用率に関して、ここ数年間の推移データも公開しています。
それによると、
中学生 | 高校生 | |
2017年 | 58.1% | 95.9% |
2016年 | 51.7% | 94.8% |
2015年 | 45.8% | 93.6% |
2014年 | 41.9% | 90.7% |
と年々確実に増えており、高校生は「持っていて当たり前」の社会になっています。
はっきり言って、日本の教育はこの急激な構造変化にまったく対応がおいついていません。
2019年2月19日、文部大臣の柴山昌彦文部科学相は小中学校へのスマホ持込を「原則禁止」とした2009年の文科省通達を見直すことを記者会見の場で述べられました。「原則禁止」は時代に合っていないという判断のようです。「同省としては保護者や教師の意見を聞きつつ2019年度中には結論を出す(2019/2/19 日経新聞記事)」ということを言っています。
世の中の大勢としては「常時、携帯させる」方向に向かっているようですね。
文科省の対応に関しては、積極的にというよりは、「そうなってしまったから、みんなの意見を聞いて決めたい」という態度なのが気になります。
小学校や中学校へスマホ持込自由にした場合にどういう未来が待っているのでしょうか。
私立校の中には持込自由の学校も多くありますが、自由な校風を売りにした名門校でもその取扱いには手を焼いていたということがわかっています。2014年、毎日新聞による「スマホ:自由な名門校でも規制」という記事が話題になりました。中学入試というハイレベルな競争を勝ち抜けるレベルの自制心を持った生徒ですら、ルールで制限しなければならなくなったということです。
諸外国の例で言えば、フランス政府は2018年9月に「集中力阻害」を理由に小中学校でのスマホ使用を法律で禁止しました。法案は同年7月に62対1の圧倒的多数で可決されたようですから、いかにそのことが問題視されていたのかがわかります。他国はまだまだ法整備までは追いついていないような状況かと思われます。私立中学校の2014年以降の規制状況についても、他国の状況についても、継続して調査を進めていきたいと思います。
未来の姿を考えるにあたり、最もわかりやすいのが実は学習塾なのではないかと私は思うのですね。それも地域の公立中学校の生徒がたくさん通うような学習塾です。多くの学習塾は、これまでのプラスジムがそうであったようにスマホ持込禁止とまではされていません。ルールとしては厳しめの学習塾でも「電源を切ってかばんにしまっておく」といった程度なのではないかと思います。
このようにルールを設定すれば、たしかに塾内で問題は起きません。しかし、そもそも論ですが、こうした制限をしているのであれば「スマホとの付き合い方を教える」という賛成派の大義名分に関しては何の貢献もしていないわけです。
「共働き世帯の増加」など社会環境も変化していますから、子どもに通信手段を持たせたいというご両親がたくさんいらっしゃることも理解しています。
解決策を提案させていただくと、学校の場合は現在、市場で流通している大人用のスマートフォンではなく、子ども向けに大幅に機能制限されたものであればOKというルールにすれば良いのではないでしょうか?
個人的な意見として、「通話、ご両親もいつでも閲覧できるメールやチャット、子どもの居場所がすぐにわかるGPS」この3つの機能に限定した商品があれば子ども用スマートフォンとしては最適なのではないかと思います。