
Vol.046 天丼屋と学習塾は何が違うのか
2020年07月14日更新
「学習塾は難しい。天丼屋は会計する人と食べる人は一緒だけど、塾はそれが違うから。」
天丼屋の経営者から学習塾の経営者になられた方の言葉です。
大手個別指導塾でSV(※)として働く知人が、元天丼屋の教室長がこのように漏らしていたと教えてくれました。
(※スーパーバイザーの略。フランチャイズオーナーに対して巡回指導を行う本部社員のこと)
塾にとってのお客様とは生徒なのでしょうか?それとも保護者様なのでしょうか?
どちらが大切かと問われれば、私はどう答えるべきなのか?
白状させていただきますが、今から10年以上前の私は保護者様優先の塾長でした。
個別指導塾が「売上」を上げようと思ったときに、最も簡単な方法は何かご存知ですか?
保護者様と緊密なコミュニケーションを行うことです。
面談、面談、面談・・・、そして毎週のように家庭電話。
保護者様からの信頼をいただくことで、売上が上がります。
会社から評価されることが嬉しかった私は、保護者様との関係性を深めていきました。
しかし、塾長の仕事はそればかりではありません。
毎日、生徒はやってきますし、講師の先生もいます。
教室の拡大と比例して、生徒や講師とのコミュニケーションは希薄になっていきました。
「今日はどこをやって、これを宿題にして・・」といった個別ならではの密着指導もなし。
個別指導とは到底言えないような授業が展開されていくことになったのです。
結果としてどうなったか?
忘れもしません、2006年の夏。
その夏は過去最高の売上を達成していました。
ところが夏期講習後半・・・
人間の身体でも、組織でも、問題は一番弱いところに出ます。
8月末、信頼関係を築けていなかった講師陣が一挙に半数以上も辞めてしまうという事態が起こりました。毎日のように届く講師からの「相談よろしいですか?」メール。
相談内容はみんな同じです。
そればかりではありません。
望まないところで大量の夏期講習を受講させられていた生徒達が一気に疲弊してしまったのです。中学3年生のいよいよこれからという時期に塾を辞めたいと言い出す生徒、それを認めない保護者様(塾の味方なので)、勉強が嫌いになって受験から逃げ出す生徒。
衝撃的だったのは、このときの高校受験生の平均偏差値は夏前と比較してマイナス・・。
つまり、それまでで最高の受講回数を提案して、受講していただいたにも関わらず、全生徒平均で見た場合の合計偏差値を下げていたのです。
こんな塾に存在意義があるでしょうか?
念のために申し上げておきますが、会社にそう命じられたわけではありません。
私が努力の方向性を勝手に間違えていただけです。
私は変わりました。
不要不急の家庭電話をしなくなりました。
保護者様のみの面談はお断りするようになりました、生徒に隠し事はしたくないからです。
(人間関係のトラブル、病気や経済的事情に関わるご相談などに関しては別です)
思春期の複雑な感情を抱えた子供と向き合う最良の方針は大人側がオープンであることです。
期間外の面談は事情をご説明して、丁寧にお断りさせていただきました。
使う時間の優先順位は、まず生徒、そして講師、保護者様。
そのような考え方が背景にあって、個別指導プラスジムは運営されています。
天丼屋の仕事は美味しい天丼を提供すること。
学習塾の仕事は生徒を成長させること。
保護者様のお悩み相談に全力を尽くすと、たしかに感謝していただけます。
しかし、お子様の成長を実感されたときの保護者様の喜ばれ方というのは、保護者様だけのお役に立てたときにいただく感謝とは次元の全く違うものです。
皆さん、本当にお子様を大事に育ててこられているんだなぁと心が温かくなる瞬間でもあります。
保護者様にそのように喜んでいただくことが、この塾のもう一つのゴールです。
そのため、冒頭の天丼屋さんのように分けて考える必要もないと考えています。