Vol.169 学力貯金
2020年09月01日更新
経済学に「ストック」と「フロー」という考え方があります。
色々な場面に適用可能な考え方なので、学生相手に話をするときによくこの言葉を用います。
お金で言うと「ストック」はこれまでの貯蓄、「フロー」は現在の収入のことです。
これを他の場面で考えるとはどういうことか、テニスを例にして考えてみます。
例えば、中学からテニス部に入部し猛練習に励み、高校時代には全国大会出場経験もある25歳男性がいたとします。
彼は、高校卒業後は一度もラケットに触れていません。
その場合、25歳時点の彼のテニスの能力は、
ストックの能力>フローの能力
になります。
蓄積してきた経験値(ストック)は何歳になっても変わりませんが、フローは限りなくゼロに近い。
逆に、中学時代の彼に関して言えば、
フローの能力>ストックの能力
です。
全国大会出場はまだしていませんが、毎日練習しているのでコンディションは最高でしょう。
もし、この25歳時点の男性が中学時代の自分と試合をすると、どちらが勝つでしょうか?
答えはわかりませんが、公式は以下のようになります。
パフォーマンス=ストック(過去の経験値)×フロー(現在の状態)
このパフォーマンスの値が高い方が勝利します。
スポーツはフローの能力が重要なので、中学生の彼が勝つかもしれないですね。
では、学力の場合はどうでしょうか?
知識というのは、スポーツに比較すると「ストック(貯蓄)」がしやすいという特徴があります。
そのため、ある程度までは「貯金」のようにして能力を貯めていくことができます。
これを私は「学力貯金」と言っています。
問題はこの「学力貯金」をいつ行うべきかという点です。
仮に、小学校4年生から高校3年生までの9年間を大学合格に向けた準備期間のようにして位置づけしたとすると、中学受験組は小4からの3年間で必死にこの「学力貯金」を行っていると考えることができます。高校受験組は中3の1年間がそれに相当します。
勉強好きな生徒なら、勉強はどのタイミングでも行えますが、大半の生徒はそうではありません。
「勉強する理由」がない中で、周囲の生徒が一生懸命に勉強していない中で、自分ひとりだけが必死に勉強するというのは耐えがたいほどの苦痛になります。
また人間的な成長という観点から考えても、中学や高校生の時期に部活動のような勉強以外のことにたくさん時間を使うことはとても有意義なことです。学校もそうであることを推奨しており、受験期でもなければ部活動など勉強以外の活動にたくさんの時間を使ってもらう前提で学校行事予定が組まれています。
あきらかに、集中して勉強するのに向いている時期とそうでない時期があるのです。
この集中して勉強することに向いている時期が「学力貯金」のチャンスです。
逆に言うと、いま「学力貯金」をしなかった場合、そのツケは後で支払わされることになります。
受験生の皆さんは勉強するための追い風が吹いていると思って、今こそぜひがんばってください。
その努力は、来年の受験よりももっと先の自分の未来に大きな価値をもたらしてくれます。