Vol.284 都立受験コースの競合
2022年11月22日更新
20代の頃は、「良い授業をしていれば生徒は自然と集まる」という職人的な考え方でした。
近隣他塾のことなど調べたこともありませんでしたが、自己中心的であったと反省しています。
塾を選ばれる方の視点に立ってみれば、たくさんの選択肢があるわけです。
それぞれの塾がそれぞれの特色を生かし、良い授業を提供しようとがんばっておられます。
他がどうであるかを調べることもなく、「自分たちを選んでください」というのは世間知らず以外の何物でもありません。
プラスジムは中学1年生2年生、中学3年生、高校1年生2年生、高校3年生と学年によって、異なる授業システムを採用しています。
なぜ、異なるシステムを採用しているかというと、学習環境が変わるからです。
近所の学校に通っている中学生と、電車で1時間先の学校に通う高校生。
部活で忙しい中学2年生と、部活引退して放課後は特に予定のない中学3年生。
受験への危機感がある3年生と、その他の学年。
前提条件の違いによって、通塾にかける手間も費用も全然変わってきます。受験生の勉強量をその他学年の生徒に求めても、本人を潰してしまう可能性の方が高いでしょう。
それぞれの学年に合ったやり方を構築してきました。
そんな中でも、最も特異なのが中学3年生に提供している「都立受験コース」。
こればかりは「どこにも同じものはない」と断言できる、かなり尖ったコースです。
「高校受験のための塾探し」という状況下で、「都立受験コース」は他塾と比較検討されることになります。しかし「提供価値」という視点で考えると比較にならないと思っています。
どちらが優れているとかそういう話ではなく、理念(目的)が違いすぎるからです。
あえて「都立受験コース」の競合を挙げるとするならば、SAPIX小学部や日能研のような中学受験塾だと私は考えています。広い意味では、私立中学校も競合です。
どういうことか。
よく知られているように、東大京大や医学部など、超難関大学に合格する生徒の多くは私立の名門中高一貫校出身の生徒が多くを占めています。中学受験を乗り越えた生徒たちが6年後の大学受験において卓越した結果を出せるのはなぜでしょうか?進学先の中高一貫校の受験指導力が最大の理由ではありません。
中学受験勉強で身につけた「勉強力」が別次元なのです。
もともとプラスジムは、中高一貫校の生徒も多く通っている塾でした。
それぞれに学習課題を抱えてはいるものの、そうした生徒たちの多くは、課題を与えれば長時間集中して勉強する、問題を解けば「解答と解説」を自分で確認して理解できない点だけを講師に質問する、模試を受験すれば自己採点して帰ってくる、など、勉強の基礎が最初から身についていました。残念なことに、公立中学生の多くは同じことをしようともしません。
何事も、一定以上の技量を身につけるためには「絶対量」が必要です。
「絶対量」を乗り越えて初めて、人はそれなりのことが「できる」ようになります。
「できる」を定義すると、「合理的な手順が身につく」ということです。
他人からみて「非効率だ」と感じるやり方の多くは、進め方が合理的でなく美しくありません。
その状態を、多くの親は「うちの子は勉強の仕方がわかっていないようだ・・」と表現されます。
ちょうど5年前の記事ですが、今も「考え」はまったく変わりません。
普通の子が「勉強の仕方」を体得するためには、相当量の勉強を経験する必要があります。
中学受験経験者は小学校という早い段階で、これを経験しているのです。
しかし、中学受験は誰にでも向いているわけではありません。
経験のある方はよくわかりだと思いますが、難関校挑戦ともなると、親子二人三脚のとんでもなく大変な毎日が待っているのが中学受験です。子どもの日常的な世話に加えて、塾からの宿題チェックや受験校探し、通塾予定の管理もすべて親の仕事。さらには、わからない問題を教えることから、子どものメンタルサポートに、塾の送迎、大量の教材やプリントの整理整頓まで・・
そこまで親がやって、費用は塾代だけで数百万。しかも、第一志望合格する生徒は男子で「4人に1人」、女子で「3人に1人」と言われています。
ひと昔前であれば、専業主婦率が高かったですから、母親がサポートに専念できたようですが、近年は共働き世帯が主流になっています。
両親ともに仕事を抱えながら、これをやり抜くには相当な覚悟が必要です。
メンタルの安定している勉強好きの子ならともかく、そうでない場合、途中で挫折してしまうことがあっても仕方のないことです。親にも子にも責任はありません。
「都立受験コース」が、本質的なところで解決しようとしているのはこの問題です。
夏休みの「1日10時間勉強」などは「そこまでやる必要あるのか」と言われることもありますが、わずか1年で、数年分の差を埋めようと思えば、普通であれば勉強時間はそれでも足りません。中学受験経験者は、塾だけでなく親までも一緒になって、何年もの間、それこそ死に物狂いで勉強をしているわけですから。
しかし、何度も言いますが、中学受験は誰でもできるわけではありません。
子どもの適性の問題に加えて、親が献身的にケアすることが前提ですから、共働きで忙しい核家族世帯だと挑戦は難しいのが実情です。
しかし、「都立受験コース」でがんばらせるのであれば話は違います。
勉強のことは塾にほぼ丸投げで大丈夫です。
中学受験経験者は、小学校高学年時に塾とご両親から手厚くみてもらっているわけですが、それと同じレベルのことを塾だけで行います。
全方位的な学習ケアと言っていいでしょう。結果的に、高校受験を終える頃には、子どもの勉強姿勢が「絵になる」ようになります。多くの親が望む(それなりに合理的な)「勉強の仕方」が、わずか1年の集中的な学習で身につくのです。
ですから、私の中で「都立受験コース」の競合は中学受験なのです。
「中学受験はパス、都立受験コースがあるから」
地域社会に、そのような新しい認識が生まれれば、たくさんの親がもっと肩の力を抜いて、子どもの成長を見守ることができるようになると思っています。