Vol.250 宮武先生(前編)

Vol.250 宮武先生(前編)



2022年03月29日投稿
2022年03月29日更新



「都立受験コース」2代目代表であった宮武が、3月27日、プラスジムを卒業しました。
この塾に多大な貢献をしてくれた講師なので、初代代表の廣岡が卒業したときと同じように、今回と次回は彼女のことを記事にします。

廣岡先生(前編)
廣岡先生(後編)

「天才型」と「努力型」で分類するなら、彼女は「天才型」でした。
面接を終えて、研修を行ったその日から授業は抜群に上手かった。
働き始めて1ヵ月を過ぎる頃には、2年、3年とここで働いている大半の先生よりも授業が上手くなり、教室中の生徒の人気者になりました。
初年度にして、生徒アンケート評価で1位になっています。
それも歴代3位という圧倒的な結果でした。
それ以上の記録を出したことがあるのは初代代表の廣岡と、MIT留学経験があり、英検1級保持者でもあった西山という当時の超人気講師の2名だけ。
その2人にしても、経験と努力を積み重ねての結果です。

関西弁のよく通る大きな声、圧倒的な存在感、子どもうけする大げさすぎるリアクション、生徒の目をじっと見つめて生徒を自分の世界に引き込むコミュニケーションスタイル、空気の作り方。
ゲームやアニメの世界に「キャラが立っている」という表現がありますが、まさにそんな感じ。
会ったことがある人はわかると思いますが、かなり強烈な個性を持つ先生です。

ところが、こうした先生が将来的に良い先生になるかというと意外とそうでもないのです。
実は生徒に心から慕われる良い先生は、「努力型」に多く、「天才型」にはあまりいません。
なぜ、「天才型」はそうならないのかと言うと、本人が成長しないからです。
最初から色々なことが出来てしまうので、その後の変化があまりない。
生徒からすると、こういう先生はあまり魅力的に思えないものです。
最初は興味関心で近づいてきますが、次第に気持ちは別の先生へと移っていく。
なぜなら、自分には成長(変化)することを求めてくるのに、本人はそのままだからです。
致命的なのは、生徒に「私には同じことはムリ」と思わせてしまうことです。

ですから、最初は「すごいな」とは思いましたが、それだけです。
良い先生に育ってくれるかどうかはまだわからない。

ある日、彼女が東大ESSで行う英語劇で主役に抜擢されました。
東大ESSですから、求められる英語力のレベルは相当高い。セリフを覚えるだけではダメで、発音まで完璧にこなさなければならない。彼女は長く海外に住んでいたわけでもない。
かなり大変なことです。
それにも関わらず、準備期間、塾の仕事も変わらずにがんばり続けたいと言う。
毎日フラフラになりながら(後に何度も同じ姿をみることになります)、必死に努力を続ける彼女の姿をみて、誰にも負けない努力ができる天才なんだと気づきました。
本番に間に合わないんじゃないかと私の方がヒヤヒヤしましたが(後に何度も同じ思いをさせられます)、何とか迎えた本番当日。
誘ってくれたので、観にいってみることにしました。
彼女の発音は私からすると完璧でした。
同時に、大勢の観客がいる舞台の上で物怖じしない度胸と演技力にも驚きました。
これもまた後にわかることですが、彼女は本番で最高のパフォーマンスを発揮するタイプ。
いつも、本番がベストなのです。
覚悟を決めたら、どんな困難なことでも必ずやり遂げるだろうなと思いました。
ふと、生徒は来ていたのだろうか、彼女の姿を観ていたのだろうかということが気になりました。
会場が明るくなってから、まわりを見渡しました。プラスジムの生徒はいませんでした。
そして、次のようにも思いました。
いま、自分が感動したように、彼女の、物事に全力でぶつかってそれを乗り越えていく姿はたくさんの生徒たちから共感を得るに違いない、と。格闘技を観るとわかりますが、戦いの内容よりも、それぞれの選手がどんな背景を背負ってそのリングに立っているかに、観客は興奮し熱くなるものです。大人のこうした姿を生徒に伝えられると良いなと思いました。
そのときに考えていたことが、塾にいる誰かの人生の物語を表現して、生徒たちの心を動かすという「劇場型」のイベント設計に繋がっていきます。

キセキと言っていいと思うのですが、プラスジムには宮武の同期にもう1人天才がいました。
それが澁谷です。
絶対音感を持つ彼は、「ショパン国際ピアノコンクール全国大会 in Asia」全国大会の小学生5・6年生部門で金賞を獲った経験もあるピアノの実力者。中高時代は勉強をがんばり東大に進学しましたが、音大に進学していても活躍できたであろうほどの才能があります。
大学受験を終えるまで音楽からは少し距離をおいていたようですが、東大に入学し、そこで出会った1人のピアニストの演奏に衝撃を受け、音楽漬けの学生生活を送ることになりました。
ちなみに、影響を与えたその人は、後に日本を代表するピアニストになる角野隼斗氏です。
澁谷もまた宮武と同じく、才能だけの人間ではありません。
温厚そのものの人柄ですが、相当な情熱を内面に秘めており、そして、かなりの努力家です。
本番がいつもベストパフォーマンスなところも宮武と同じ。
彼の演奏の力を借りることで、表現の幅はぐっとひろがります。
まるで舞台役者のような宮武と彼が組めば、相当おもしろいことができると思いました。

受験にはたくさんの物語があります。
それが交差する場所、学習塾。
おそらく今まで、誰も(意図的には)行っていないであろう新しい教育への挑戦が始まりました。
ぼくと宮武と澁谷の3人の手で。
それが今から3年前の話です。


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